東京地方裁判所 平成3年(ナ)1822号 決定 1991年8月19日
当事者 別紙のとおり
担保権・被担保債権・請求債権 別紙のとおり
差押債権 別紙のとおり
主文
一 債権者の申立てにより、別紙の担保権・被担保債権・請求債権目録の2記載の債権の弁済に充てるため、同目録の1記載の先取特権に基づき、債務者及び被保険者が第三債務者に対して有する別紙差押債権目録記載の債権を差し押さえる。
二 債務者及び被保険者は、前項より差し押さえられた債権について取り立てその他の処分をしてはならない。
三 第三債務者は、第一項により差し押さえられた債権について債務者及び被保険者に対し弁済をしてはならない。
理由
一本件船舶先取特権の実行事件である本件は、日本の裁判所に提起されており、いわゆる法廷地法は、日本法である。そうすると、本件傭船契約により定期傭船者が有する、本船の沈没による積荷の滅失による損害賠償債権その他の債権について、船舶先取特権が成立するかどうかは、法廷地法である日本法によって、判断されるべきである。
二本件において提出された資料によれば、債権者に担保権・被担保債権・請求債権目録記載の損害が生じたことを認めることができる。船舶所有者の責任の制限に関する法律三条及び九五条によれば、債権者は、これらの損害賠償債権について、本船の船体及びその属具に対する先取特権を有するものである。
三そして、本船の沈没による保険金請求権(債務者以外の被保険者が取得するものを含む。)は、本船の船体及びその属具に代わるものであるから、民法三〇四条により、債権者は、これに対しても先取特権を行使することができるものである。
(裁判官淺生重機)
別紙当事者目録
債権者 昭和海運株式会社
代表者代表取締役 吉田耕三
債権者代理人弁護士 平塚眞
同 錦徹
同 津留崎裕
同 小林深志
債務者兼被保険者 オーシャン・シッピング・ラインズ・インコーポレイテッド
(OCEAN SHIPPING LINES INCORPO-RATED)代表者
被保険者 フェアホープ・インターナショナル・コープ・エス・エイ
(FAIRHOPE INTERNA-TIONAL CORP.S.A.)代表者
被保険者 トライトランス・ショピング・コープ
(TRYTRAN-CE SHIPPING CORP.)代表者
被保険者 ユニーク・シッピング・エージェンシーズ・リミテッド
(UNIQAUE SHIPPING AGENCIES LTD)代表者
第三債務者 住友海上火災保険株式会社
代表者代表取締役 徳増須磨夫
別紙担保権・被担保債権・請求債権目録
1 担保権
船主責任制限法九五条所定の先取特権(物上代位)
2 被担保債権及び請求債権
米貨七、一八五、740.70ドル
平成三年八月七日頃、モーリシャスの東約七〇〇マイルのインド洋上にて、機船「マニラ・トランスポーター」号(M/V"MANILA TRANSPOR-TER"、以下「本船」という)が沈没したことにより、債権者が債務者との一九八八年二月一日付定期傭船契約(以下、本件定期傭船契約という)に基づき有する下記の損害賠償請求債権(船主責任制限法三条の制限債権)。
1 積載貨物の全損 米貨三、六〇七、765.70ドル
上記事故当時本船に積載されていた鉄鋼石一〇一、三七四トンのシー・アンド・エフ価格
2 逸失利益 米貨三、五七七、九七五ドル
上記事故当時の定期傭船市場レート(一重量トン一月当り米貨4.25ドル)と本件定期傭船レート(同米貨2.60ドル)の差額に、本船の重量トン数(一一四、一三〇トン)及び本件定期傭船契約残存期間(一九ヶ月)を乗じた額
($4.25−$2.60)×114,130トン×19ヶ月=$3,577,975)
別紙差押債権目録
米貨七、一八五、七四〇ドル
但し、下記(一)記載の船体保険契約等に基づき、別紙当事者目録記載の被保険者らが第三債務者に対して有する保険金請求権のうち、船体及びその属具についての保険金請求権で、下記(二)に記載する順序に従い、頭書の金額に満つるまで
記
(一) 保険契約
保険者 第三債務者
保険契約者ないし被保険者 債務者及びその他の別紙当事者目録記載の被保険者ら(以下、「被保険者ら」と総称する)
保険の目的 機船マニラ・トランスポーター号(M/V MANILA TRAN-SPORTER)
保険の種類 船舶保険及び船費保険
(二) 差押の順序
(1) 被保険者らが分割債権として上記(一)記載の保険金請求権を有する場合には、各被保険者の有する保険金請求権の差押の順序は次のとおり。
① オーシャン・シッピング・ラインズ・インコーポレイテッド
② フェアホープ・インターナショナル・コープ・エス・エイ
③ トライトランス・シッピング・コープ
④ ユニーク・シッピングエージェンシーズ・リミテッド